ブログ

接客マナーのお話

22.01.12

私たち介護サービス従事者は、顧客であるご利用者から報酬をいただいて支援をさせていただいています。ボランティアではありません。にもかかわらず、知らず知らずの内に家族的な感覚になってしまい、尊厳を無視した関わり(タメ口・子ども扱い等)になってしまうことがあります。このブログ記事「接客マナーのお話」の内容は、そのような状態になってしまうことを戒めて、礼節をわきまえた態度で支援させていただくために、当施設の職員全員に配布した資料から抜粋したものです。

私たちはこの考えを持ってサービスを提供させていただいていますことを宣言します。

 

地域密着型特別養護老人ホーム しあわせの家寒川

施設長  篠原 徹

 

 

あなたが普段の生活の中で以下の場面に遭遇したとします。

どう感じるか考えてみてください。

 

家族でレストランに行きました。

店に入ると

「いらっしゃい」

注文を取りに来た店員が、

「なににする?」

出来上がった料理を持ってきて

「お待たせ」

追加を頼もうと店員を呼ぶと

「なに~? どしたん?」

飲み物をこぼしてしまったら

「もぉ~、何しよんよ」

帰るとき

「またきてな」

 

 

快く感じましたか?

実際にこんな接客をしているところはありますか?

このやりとりに対して、堅苦しくなくて心地いいと感じる人もいるかもしれませんが大多数の人が不快に感じるのではないでしょうか。

そういった対応をしてくる人の人柄や雰囲気によって違いはあるかもしれませんが・・・。少なくとも私はこのような対応をされれば不愉快です。

 

そして、このやりとりを見て何か気づきませんか?

私たちが、顧客であるご利用者と関わるとき、その不愉快な対応と同じ対応をしていることはありませんか?

 

介護業界(特に施設サービス)では、なぜこんな当たり前の接客ができないのでしょうか?

 

それは一言で言うと顧客意識が低いからです。

顧客であるはずのご利用者を「自分たちの支援がなければ困る人」と見下しているからこういう対応(タメ口・子ども扱い)が平気で出来るのです。これに対して「そんなことはない」と反論する人もいると思います。もちろんすべての人がそうだとは言いませんが、知らず知らずのうちにそうなっていることが多いという事実があるのです。

「報酬をもらってサービスを提供している」という当たり前のことが家族的な感覚で支援を行っていると感覚麻痺を起こしてしまうのです。また、福祉=奉仕というイメージも影響しているかもしれません。介護施設の場合は、どうしても顧客意識が薄れてきてしまうという側面があるのも事実ですので、その感覚麻痺を起こさないためには、顧客意識を持つ教育が必要になるのです。

 

こうした説明をしても、ご利用者に対して顧客として接客することに対して違和感を持つ人がいます。「毎日顔を合わせていて馴染みの関係が出来ているのに家庭の中で交わしている会話(タメ口)がどうしてダメなんだ」「形ではなくて心がこもっていたら利用者は不快に思わない」という主張をします。

 

たしかに、個人経営の飲食店に通い、常連となったときに、例に出したレストランでのやりとりがあったとしても不快に感じないかもしれません。

 

しかし、それと同じに扱ってはいけない決定的な理由があります。

それは、毎日関わることで馴染みの関係になっていると思っているのは、あなただけだからです。

ご利用者の中には「認知症」を患っている方がいらっしゃいます。

専門職であれば「認知症」という病気がどのようなものであり、認知症の方と関わるときにどのようなことに留意しなければならないかを十分理解しているはずです。

 

認知症の中核症状に「短期記憶障害」「見当識障害」があります。

 

そのような障害がある方にとっては程度にもよりますが、自分に関わる人は毎日新しい人と感じるのです。その人の立場にたったとき、毎日会っているあなたは初めて会う人なのです。その初めて会う人から馴れ馴れしく接してこられて安心できるでしょうか。また、認知症の方は、事実を覚えることができなくても感情は残ると言われています。不安になる感情を与える接し方が厳禁であることは当然になります。

 

「関係が出来ているからタメ口で接しても問題ない」と思うのは支援する側の勝手な妄想であり、相手の立場に立っていないということです。子ども扱いはそもそも論外です。

 

それでは認知症を患っている人以外はタメ口でいいのか?ということになります。

 

答えは「ダメ」です。

 

なぜなら、施設はたくさんの方が集団で生活をする場所だからです。

 

わたしたちはご利用者の特性を把握することができますが、ご利用者やご家族はそういったことを把握することはできませんので、「対応が違う」ということになります。

人によっての使い分けを的確にできる人はいません。

いたとしても、全員が真似ることはできません。

人柄や醸し出す雰囲気からタメ口で話しても不快に感じない職員がいるのも事実ですが、施設の職員全員がそんな人にはなれません。

「自分は不快に思われていないから問題ない」ではダメなのです。

 

朝、目覚めれば

「おはよう」ではなく「おはようございます」

「よう寝れた?」ではなく「よく眠れましたか?」

着替えを介助するときは

「着替えるよ」ではなく「着替えますか?」

協力動作をお願いするときは

「手いれて」ではなく「手をいれてもらえますか」

何か飲み物を提供するときは

「なに飲む?」ではなく「何か飲まれますか?」

じっとこちらを見ている方がいれば

「なに?」「どしたん?」ではなく「どうなさいました?」「どうしました?」

転倒リスクの高い人が立ち上がっていたら

遠くから大きな声で「座っといて」ではなく、黙ってそばに行って「座りませんか」

食事を運ぶときは

「お待たせ」ではなく「お待たせしました」

「食べてよ」ではなく「ゆっくり召し上がってください」

入浴に誘うときには

「風呂いくよ」ではなく「お風呂に入りませんか?」「お風呂にいきましょう」

自分で移動ができる人に

「こっちきて」ではなく「こちらにどうぞ」

 

などなど・・・。

 

ご利用者が心地よく感じるのはどちらでしょうか?

ご利用者が安心できるのはどちらでしょうか?

接客マナーとして適切なのはどちらでしょうか?

 

生活に密着しているという特性もありますので、一流ホテルなみのマナーということではなく、あらゆる場面で言葉をかけるときに、丁寧語を使う習慣をつけませんか?

 

この表現に変えるのにそんなに労力がいりますか?

自分たちの関わり方がご利用者の精神状態を不安定にさせて、それに対応するために不必要な労力を使わなくてはならないことになっている悪循環がありませんか?

 

そしてなにより、私たちはご利用者の家族ではありません。家族になることはできませんし、ボランティアをしているのではなく、報酬をいただいてサービスを提供しているのです。

 

サービスの質を高めるために、一番はじめにしなければならないことは、接遇マナーを徹底し、顧客として関わることが当たり前になることだと思います。

ご利用者に悪意を持って馴れ馴れしく接している職員はいないと思います。

しかし、結果として「安心を与えることができていないかもしれない。」「不快に思っているかもしれない」としたら改めるべきではないでしょうか。

 

また、職員の中には、こうした馴れ馴れしい関わり方に対して、心を痛めつつもいつの間にか感覚麻痺を起こしてしまった方もいるのではないでしょうか。

 

介護福祉業界の接客レベルはかなり低いと思われているのが現実です。

 

ご利用者・ご家族・地域の皆様から信頼され、愛される施設となるには、職員ひとりひとりが誇りを持てる仕事ができるようになることが大切だと思います。

 

 

「自分の大切な人が安心して暮らせる場所を創ろう!!」

 

これが当施設の合言葉です。

 

これを実現する最初の一歩が顧客意識を高めることだということを全員が認識しましょう。

わたしたちはご利用者と「契約」を交わしてサービスを提供させていただいているということを決して忘れてはならないのです。